【ご質問】
一旦示談をしてしまいましたが、やっぱり、その内容に納得できません。示談金の増額はできませんか?
【ご回答】
示談書の内容や示談をした当時の状況にも左右されますが、一般的には、一度示談したあとにさらなる請求をする、というのは難しいでしょう。
そのため、示談をする際には、慎重にすべきです。
示談は、一方当事者の意思だけで覆すことは容易ではない
たとえば、交通事故の人身被害の慰謝料として、50万円を支払ってもらう、という内容で示談したとしましょう。
でも、後々になって考えてみると、裁判基準の入通院慰謝料と比べて低い金額だったことが判明したので、示談はいったんなかったことにして、きちんと裁判基準での慰謝料をもらいたいと考えたとします。
それが実現できるかというと、一般的には、難しいと言わざるを得ないでしょう。
いったん示談してしまったものをひっくり返すというのは、容易ではありません。
反対のことをされた場合を想像してみてください。
慰謝料を50万円支払う、という内容で示談したのに、相手方保険会社が「やっぱり50万円は高いから払わない。20万円程度なら払ってあげる」なんていうことは許されないでしょう。
このように、いったん示談したものは、特別な事情(後ほど解説)がない限り、覆すことはできないと言わざるを得ません。
示談は絶対無効・取消しできないわけではないけど......
もちろん、いったんした示談は、いかなる理由があっても取り消すことはできない、というわけではありません。
たとえば、民法96条1項には、強迫されてした意思表示は取り消すことができる、という定めがあります。
相手方に監禁され、この示談書にサインをしないとお前を殺す、などと脅されて示談書にサインしたような場合には、さすがに取り消すことができるでしょう。
しかしながら、相手方がまっとうな対応をしている限りは、詐欺や強迫は成立しないでしょう。
錯誤無効(民法95条)というのも考えられますが、これも、利用できる場面は極めて限られているでしょう(動機の錯誤の問題をクリアできても、重過失認定をされる可能性が高いのではないでしょうか)。
このように、いったん成立した示談をひっくり返す、というのは、あらゆるケースで不可能とまでは言えませんが、相当な事情がない限り難しいでしょう。
示談当時予測できなかった損害が生じた場合には要注意
ただ、交通事故の場合には、示談当時は予測できなかったような損害が発生することもあり得ます。
たとえば、簡単な交通事故で、ケガもすぐに治るものと思って、事故後10日程度で示談してしまったとしましょう。
しかし、事故後治療を続けてもまったく治癒せず、重篤な後遺症が残ってしまったとします。
このような場合には、示談当時に予想できなかった損害については、示談の効力は及んでいないと主張していくことも可能でしょう(最判昭和43年3月15日・民集22巻3号587頁参照)。
まとめ
このように、いったん示談をしたものを覆すというのは非常に困難です。
そのため、示談をする際には慎重にすべきです。
しかしながら、示談をしてしまったら、それで全ておしまい、というわけではありません。
示談をした当時の状況や示談後の状況等によっては、さらなる請求ができる場合もあり得ますので、納得がいかないような場合には、一度、弁護士に相談されることをおすすめします。