加害運転者が意識喪失をしていた場合何が問題か
それほど頻繁にあるものではないですが、まれに、自動車を運転中にてんかん発作などのため、意識を喪失し結果交通事故が起こってしまう場合があります。
意識喪失を伴うような持病があるのに運転しているんだから損害賠償責任を負うのは当然だろ、と思われるかもしれません。
この思考過程は実は正しいのですが、詳しく見ていきましょう。
民法713条は次のように定めています。
「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。」
けっこう難しい条文ですが簡単に解説すると、意識がない間に他人に損害を与えても原則として責任は負わない。ただし、わざとまたはミスによって意識消失の状態を招いたときは例外的に責任を負う、という内容です。
交通事故の加害者には、どういった場合に民法上の責任が認められるか
意識喪失をしている間に事故を起こしてしまっても、『原則として』民法上の責任は負わないことになります。
では、どういった場合に例外として損害賠償責任が認められるのでしょうか。
たとえば事故の以前からてんかんにより意識喪失をしたことがあり、医師から薬を処方されていたにもかかわらず、薬を飲んでいなかった場合には、運転者に意識喪失の状態を招いた過失があるといえるでしょう(宇都宮地判平成25年4月24日・判例時報2193号67頁参照)。
これに対して、過去に意識喪失をしたことがなく、意識喪失を伴う病状にあると診断されたことがないような人の場合には過失なしとして責任を負わない可能性が高いでしょう。
たとえば、交通事故以前に2回失神したことがあったものの、てんかんにり患していると指摘されたことがなく、約10年間運転中にてんかん発作を起こしたこともなく、発作の前兆もなかったという人の事例で過失なしとして責任を否定された事例もあります(名古屋地判昭和38年8月20日・訟務月報10巻1号96頁)。
民法上の責任が否定されても自賠法がある
ちょっと民法の規定は加害者に有利すぎないか? と思われる方もいるでしょう。
自動車事故では死亡など重大な結果を伴うこともありますので、その疑問も当然でしょう。
しかしご安心を。その場合には、自賠法の活用が考えられます。
民法713条で責任が否定される場合でも、自賠法3条に基づいて加害車両の保有者に責任追及をしていくことが可能です(実は学説の対立がありますが、裁判例は自賠法によって救済しています)。
運転者が意識喪失状態に陥ったことにつき、過失がない場合でも、保有者は責任を免れないというわけです。
自賠法が適用されない自転車事故などはやはり民法713条の問題に
ただし、自賠法はあくまでも自動車事故の、それも人身損害に関してのみ適用されます。
そのため、物損事故や、加害者が自動車ではなく自転車のような場合には、運転者が意識喪失に陥ったことにつき過失があるかどうかという問題を正面から論じなければいけないこととなります。
このようにかなり複雑になりますので、加害者の責任能力が問われる事案では弁護士への依頼をおすすめします。