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2016.08.26交通事故判例芸能事務所に所属していたタレントが交通事故にあった場合の逸失利益


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紹介する裁判例


今回紹介する裁判例は、大阪地判平成13年5月29日(交通民集34巻3号670頁)の事案です。

これは、事故当時20歳のまだ駆け出しと思われるタレントの方が交通事故の被害にあい、腓骨欠損等で後遺障害等級併合7級相当という重い後遺障害が残ってしまった事案です。

このケースではタレントとしての逸失利益について裁判所の判断がなされており、注目に値する裁判例です。


事案の概要


過失割合等の争いもありますが、今回は逸失利益に着目してまとめていきます。

・事故は平成8年4月に発生

・被害者の方は事故当時、松竹芸能にタレントとして活動していたが、事故の前年度の松竹芸能からの収入は2万4650円だった

・レンタルビデオ店でのアルバイトもしており、そちらは平均2万6813円の収入だった

・平成8年5月以降、ラジオ番組に週一でレギュラー出演する予定だった。これが実現していた場合には松竹芸能からの収入は月額7万1360円程度になる予定だった

・アルバイトと松竹芸能からの収入をあわせると、約120万円くらいの年収になる見込みだった


裁判所の判断


このケースで裁判所は厳しい判断をしています。

まずは、芸能タレントとしての逸失利益については以下のように判示してこれを認めませんでした。

芸能界は競争が激しく、多くの者が途中で他の道に転身することを余儀なくされることは公知の事実であり、被害者の方が交通事故に遭遇しなかった場合でも、将来芸能タレントとして生計をたてることができたかは未知数であり、芸能タレントの収入を逸失利益算定の基礎とすることはできない

次に、平均賃金での逸失利益の算出も認めず、平均賃金の3分の2を基礎収入と認定しました。

これは、被害者の収入をもとにした判断です。


弁護士のポイント~今回のような交通事故では、立証と訴訟戦略が重要~


まずは芸能タレントとしての逸失利益を認めることについては、裁判所は否定的な判断を下しました。

裁判所は、被害者の方が将来芸能タレントとして生計をたてることができたかは未知数であるとしましたが、そういった未知数の部分を評価してはくれません。

未知数だから芸能人として活躍できたかもしれないね、などという甘い判断はしてくれません。

逸失利益の立証責任は被害者側にあるため、未知数という程度の心証では負けてしまいます。

裁判所に、この人は将来タレントとして活躍できた可能性が高い、という心証を抱かせなければなりません。

例えば、松竹芸能がこの人にどれだけの資金を投じていたか、芸能業界の関係者がこの人を押そうとしていたか、松竹芸能に所属する芸能人のどの程度の人数がタレントとして活躍できているかといった統計などをもって立証していくことが考えられます。

次に、平均賃金での逸失利益も認めない、という非常に厳しい判断をしています。

この点は訴訟戦略もからんできます。

たとえば、芸能タレントとして花開かなかった場合にはきちんと就職していただろう、という点(親族の会社に入社できた可能性が高いなどがあればなお良い)を主張立証していくことによって、せめて平均賃金程度の逸失利益は認められたかもしれません。

ただ、このような主張をすれば裁判所から、芸能タレントとしてやっていく自信なんてなかったんだな、と見られてしまうおそれがあります。

この点は訴訟戦略にもからんできますが、芸能界の厳しい状況を考えると、よほどタレントとしての成功が確約されているような状態でもない限り、普通に就職していただろう、という道筋も主張立証していったほうが無難でしょうか。


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