【ご質問】
保険診療を受けるべき場合はどういう場合ですか?
【ご回答】
ケースバイケースですが、
(1)過失相殺が予測されるケースや
(2)加害者が任意保険に加入していない場合等、資力が乏しいと予測される場合、
(3)治療費に争いがある場合には
メリットが大きいといえます。
※健康保険を利用するメリットの解説ページとデメリットの解説ページをご覧いただければ、より理解が深まります。
【簡単なまとめ】
交通事故の被害者が国保等の健康保険等を利用して、保険診療による治療を受けるメリットとデメリットについて簡単にまとめると、以下のようになります。
メリット→治療費を安く抑えられる。
デメリット→(1)保険診療の枠で治療が制限されるおそれがある。(2)治療に携わる医師等が嫌がる可能性がある。
健康保険等を利用するメリットが大きいケースというのは、治療費を安く抑えることによって利益があるケースです。
交通事故の被害にあった場合、被害者は加害者に対して、治療費を支払うよう請求できます(詳しくは、治療費の解説ページをご覧ください)。
しかしながら、以下のようなケースでは、治療費を被害者自身が全部または一部を負担しなくてはいけない場合があります。
(1) 過失相殺が予測される事故では、健康保険等を利用するメリットが大きい
交通事故の被害にあった場合、治療費を全額、加害者に支払ってもらえるケースはもちろんあります。
しかしながら、動いている自動車同士が衝突するケースでは、被害者の側にも何らかの落ち度が認められるケースも多数あります。
このように、被害者に何らかの落ち度が認められてしまうケースでは、被害者の落ち度の分だけ、損害賠償金額が減少されてしまいます。
これを過失相殺といいます(詳しくは、過失相殺の解説ページをご覧ください)。
過失相殺は、10:90や30:70といった割合で表されますが、これは、治療費にもかかってきます。
つまり、治療費が100万円かかったケースでは10万円(過失割合が10:90の場合。30:70なら30万円)を被害者が支払わなければいけない、ということになります。
保険診療に切り替えて、治療費を安く抑えられれば、その分、ご自信の負担は軽くなります(たとえば、治療費が半分の50万円に抑えられれば、後々の負担も半分の5万円ですむ。なお、全ての医療機関が、自由診療の場合には、保険診療の場合に比して、倍の治療費をとっているというわけではありません。最近では、いわゆる日医基準に沿う医療機関が多いと思われます)。
治療費を全額払ってもらっているケースでも過失相殺には要注意
このように説明すると、
「いやいや、私の場合、加害者の保険会社が医療機関に治療費を払ってくれているので関係ないですよ」
と仰られる方もいます。
しかしながら、多くの場合、これは間違いです(被害者に過失がないケースであればその通りですが)。
過失相殺は、支払い済みの治療費にも適用されるのです。
つまり、治療費を全額保険会社が支払ってくれていたケースでも、示談をする段階になって、保険会社から、
「支払済みの治療費100万円のうち、あなたの過失分の10万円は、我々が支払う義務がないものなので、返してください」
といわれるでしょう(実際には、慰謝料等から差し引かれます)。
そのため、保険会社が全額治療費を支払ってくれているから、自分は関係ない、と思っていると、後々、驚くことになる可能性があります。
過失の有無については、保険会社の対応に関係なく、注意を払っておくべきです。
(2) 加害者が任意保険に加入していないような場合には、健康保険等を利用するメリットが大きい
交通事故の加害者が任意保険等に加入していないような場合には、さらに深刻です。
交通事故の損害賠償金は、天からふってくるものではありません。
加害者の保険会社が対応する場合には、加害者の保険会社が支払ってくれるでしょうが、加害者が任意保険に加入していないような場合には、加害者ご本人に支払ってもらわなくてはいけません(厳密に言うと、自動車の所有者と加害者が別の場合には、所有者に請求すること等も考えられますが)。
たまたま、任意保険の期間が切れていただけで、お金はもっているから、支払能力に問題ない、という加害者はまれです。
任意保険に加入するお金がなかったので加入していなかった、というケースが多いです。
日本の法律では、お金がない人からお金を取り立てることはできません。
たとえば、被害者が加害者に対して、1000万円を支払うよう求めたとしても、加害者が10万円しかもっていなければ10万円しか支払ってもらうことは出来ません。
これは、治療費の場面では深刻な問題になる可能性があります。
自由診療を受けて、治療費が100万円かかったとします。
治療を受けた以上は、被害者は医療機関に対して、治療費を支払わなくてはいけません。
しかしながら、加害者がお金を持っていないとなると、この治療費が全額自腹になってしまうおそれがあります。
実際には、自賠責や政府保障事業から、最大120万円までは填補してもらえますが、この120万円は、入通院慰謝料も含めたMAXの金額です。
治療費で、この120万円の枠のうち、100万円を使ってしまえば、慰謝料は最大でも20万円しか填補されませんし、治療費が120万円を超えれば、やはり、被害者の自腹になるおそれがあります。
このように、加害者が任意保険に加入していない場合など、加害者の支払能力に疑問がある場合には、健康保険等を利用するメリットが大きいといえます。
(3) 治療費について争いがある場合にも、健康保険等を利用するメリットが大きい
このほか、保険会社と治療費や症状固定日について、もめているケースでもメリットが大きいといえます。
治療費をめぐって、「ここまでの治療費は認めます。でも、ここからの治療費は不必要な治療だと思うので払いません」などと保険会社と争いになることがしばしばあります。
このような場合に、最終的に、保険会社または裁判所が被害者の言い分を認めてくれれば良いのですが、そうなるかどうかは最後までわかりません。
保険会社の言い分が認められてしまうと、治療費の一部が自己負担になってしまいますので、治療費をめぐって争いになっているケースでは、保険診療に切りかえることでリスクヘッジができるでしょう。